JCAへの道2003

課題曲(Quoniam ad te clamabo)
ルネサンスからバロック時代の曲の分類、演奏解釈については、異論がある方もあるかも知れませんが、以下は今回の富士通川崎合唱団での演奏に際しての指針として捉えてください。
また、演奏上の注意は、楽譜を見て特に注意してほしいことをメモ書き程度に挙げています。それ以上の細かい指示は各自の楽譜で確認してください。

[全体を通して]
曲の構成をよく考えて、それぞれの部分で何を訴えるべきか目的意識を共有して演奏しましょう。
  第一連:曲の出だし〜18小節1拍目まで(Quoniam ad te clamabo,Domine)
  第二連:18小節2拍目〜29小節3拍目まで(mane exaudies vocem meam)
  第三連:29小節4拍目〜曲終わりまで(mane astabo tibi et videbo)
のように3つに分割される曲のそれぞれの部分で、何を強く表に出すべきか、全体を見通して歌うよう心がけたいものです。

また、課題曲の作曲者Shutzは、自由曲の作曲者Hasslerと生年はそれほど遠くありませんが(Schutzは1585-1672年、Hasslerは1564-1612年)、Shutzの方が作曲家として活躍した時代が新しく、ルネサンスからバロックへの転換期に当たっています。そのため、細かい音符で表現されている旋律(八分音符が多用されている部分を指す)があった場合、自由曲とは異なり、より細かく硬めに音を立てて歌うことにします。また言葉の抑揚と旋律が非常に合致した形で曲が作られていますので、その大きなうねりをきちんと聴かせる演奏をしましょう。


第一連:なぜなら、主よ、私はあなたに向かって呼びかける
 ・出だしの「Quoniam」のE-durの和音を明るくしっかり提示したい。
  音量は必要だが、喉を硬くロックしてしまわず、広がりをもったフォルテで。
 ・ad te clamaboのcla-ma-に向かって勢いをつける。ただし、そこでおしまいに
  せずに、次のDomineのDoに向かってもう一度うねりを感じること。

 ・2小節、テノールからはじまる「ad te clamabo」の旋律をきちんと提示する。
  アルト、ベースは和音の移り変わりをよく認識して。
  ベースはFナチュラルの音が下がり気味。アルトは反対に、時々上ずり気味。

 ・6小節目アルト、下のAからオクターブ上のAへなめらかに上がる。
  次のGisはむしろ低めに入り、Aでまた高めに解決する。
 ・7小節目ベース。Fナチュラルの音はあまり頑張らない、ソフトに。
  次の8小節目の旋律をしっかり歌う。

 ・ソプラノ、8小節目のGの音に最初の勝負をかけましょう(^^;)。頑張ってしまわず
  に、澄んだ音で、9小節目に向かって広がりを持っていくように。
  9小節目のEは高めに出す(ベースのAに対するEなので)

 ・10小節目、ベースのDの音(Domineのneに相当する音)下がらないように。
  その音を基準にして、テノール、アルトの音が入ります。
  また、12小節目〜13小節目は明るめに歌う。C-durで一度解決した感を作る。

 ・13小節目〜アルト、3拍続くAの音の広がりをもって。男声はしっかりと3度で
  ハモる。
  テノールの半拍早く入る「Domine」のDoは(続く八分音符も)出し気味で。

 ・16〜17小節目、全パート、第一連の終止感を十分に出すように。

第二連:(主よ)朝ごとに、私の声を聞きたまえ
 ・言葉の抑揚(細かい単位)を強調して歌う。ex:maneの語尾を引く、など。
 ・maneで始まる内省的な旋律と、次第に激しくなるvocemのメリスマの対比
  つける。 特に後半の下3声が掛け合いになる部分はドラマティックに。

 ・18小節〜20小節。男声は3度から次第に離れ、Eの音でオクターブユニゾン
  になることに注意(男声のみなのでしっかりと音程を揃えて)
  また、ベース19小節目、テノール20小節目の四分音符の旋律を少し聞か
  せる。

 ・全パート、vocemのメリスマ、八分音符を少し硬めに立てる。その前の付点
  四分音符を固めすぎない方がメリスマが活きる。

 ・21小節〜、ベースの旋律(ド、レ、ミ)の全音は少し大またに上がる。
  また、vocemの八分音符の動きを確実にそろえること(急ぎすぎず、遅れず)
  同、テノール、四分音符の「mane exaudies」少しテヌートで出す
  (四分音符のmaneはここだけ)

 ・22小節目〜、ソプラノ。vocemに入る寸前の語尾(es)が短い人あり。
  voの入りを揃えて。
  カンニングブレス位置を再確認。アルトが入ってくる時に揃っているように。

 ・26小節〜、下3声、各パートメリスマをドラマティックに。ただし、少しでも
  ずれる人がいると、せっかくの半拍違いの掛け合いが全く活きてこなくなる
  ので注意。
  ベースは、高い音に飛ぶ時ためらわない。また、付点四分音符は急ぎすぎ
  ない。
  同、ソプラノ、vocemに入る前のesが短くなりすぎない。
  最後のvocem、ソプラノとテノールはよく揃えて動く。

第三連:朝ごとに、私はあなたの前に立ち、そして(あなたを)仰ぎ見る
 ・前半の軋んだ音程(各パート二度でぶつかる)は、祈る人間の感情を示す。
  後半はやはりドラマティックなメリスマが続くが、第二連の内的な激しさとは
  異なり、ストレスのある不協和音程から希望と安定を示す明るい和音へと
  変わっていく。

 ・29小節〜、男声の二度のぶつかり、アルトが入って一度解決した音程へ。
  30〜31小節で、今度は女声の二度で再び軋んだ和音を鳴らす。
  →ここはどちらも「mane」という言葉についての不協和音程

  32小節目で一度カデンツを形成する(内声)が、33小節のアルト対ベース
  アルト対ソプラノ、34小節のアルト対ソプラノの3回連続の二度の音程で
  軋みを示し、アルトのカデンツで解決する。
  →こちらは「astabo」という言葉についての不協和音程

 ・最後の最も長いメリスマ。全パート、付点二分音符の広がりと八分音符の
  硬さを交互に表現する。
  その連続で大きなうねりが現れ、四分音符の上行音形で低いパートから
  あおってきた結果、最後のテノール、ソプラノの上行音形でコーダを迎える。
  最後まであまり音量を落とすことなく歌う。

 ・希望に満ちた、広がりのあるA-durを鳴らしたい。
  ソプラノはブレス位置を最後に確認すること。ベースは最後のEからAへ降りる
  時、固くなりすぎない。
自由曲(Motett/Gloria in excelsis Deo)
自由曲に関しては、もう細かいことはほとんど身体に入っていると思います。合唱祭の反省やこれまでの練習をよく思い出してきてください。


Motett "Dixit Maria"
マリアが受胎告知の際に天使に答えて言った言葉を歌った曲です。
どのフレーズもレガートで柔らかく歌うこと。また、繰り返される言葉の中でどれが
一番大切かを考えて、でこぼこなフレーズにならないように歌う

P-18
 ・各パート、「Dixit Maria ad angelum」というフレーズで大きな流れを作る。
  4声それぞれが旋律を歌う時、他のパートはそれを際立たせるように(2段目まで)

 ・出だしの「Dixit Maria」、特にMariaのaの音は少し高めに出す
  (特にテノール、ソプラノ)

 ・pになる部分(2段目終わりの上3声、4段目4小節全パート)、確実にpに
  落とすこと。
  それ以前のフレーズをきちんとdecresc.して収めないと、急に音量が変わって
  しまうので注意。

 ・3段目のベースの入りの音は特によく揃える。いきなり出しすぎず、少しずつ
  盛り上げていく。
  それにつれて、3段目4小節の女声のmfが活きてくる。

 ・4段目のベースが入るところは、それほど大きくしすぎない。次のpを予感する。

P-19以降
 ・P-19とP-20では、P-20の方がより感動を持って表現する。音量の幅も、歌い方も
  より劇的な方向へ。

 ・一回目のEcce〜はあまり頑張り過ぎない。二回目は少し出す。
  どちらも、テノールの八分音符の動きを聞きながらdecresc.すること。

 ・2段目のfiat mihiの出だし、アルトもソプラノも音高めに取る。
  また2段目から3段目の「Secundum〜」はスーパー・レガート(^^;)で。

 ・レガートで歌う際、n、m、r、v等の子音にきちんと音程を乗せる。
  Secundum verbum tuum(太字で示した部分が意識が不足すると切れて聴こえ易い)

 ・4段目、ベースの全音符、二分音符の音程注意。オルガンの低音部のように
  豊かに音を保って鳴り続ける。最後のtuumで下がらないように。

 ・コーダ(P-20最後の4小節)、力まず、たっぷりと。
 最後の和音を綺麗に決めましょう。

Gloria in excelsis Deo
Motettに対して、快活にはっきりと歌う。言葉の抑揚を活かして、できるだけ語尾をはしょらないようにする(急ぎすぎて聴こえる)。
中間部の「qui tollis peccata mundi,miserere nobis」のみ、非常に抑制された音で。
最後の「in Gloria Dei Patris」を感動的に重ねていきたい

 ・先唱、テノール全員で。
  意識をあわせる部分は以下の3点だと思います。
   最初のペス(Gloの部分。縦に重なった音符)をあまり重く上がらない。
   excelsisの「ce」の部分のトラクトゥルス(上に横棒がついた四角)を少し意識して。
   Deoの部分はクリマクス(棒付の四角+菱形)になっており、ここでは菱形部分は
   軽く動くべきである。

P-4〜P-5
 ・四分音符=100〜110程度の速度になります。最初のアルトがテンポを決める
  ことになるので、指揮をしっかり見ること。

 ・全パート、paxが跳ねすぎたり短くならないように。
  また「hominibus」のmiの部分(八分音符)は少し出し気味で。

 ・各パートばらばらに入ってきた旋律が、2段目3小節「bonae voluntatis」で一度
  揃う。特に外声同士で八分音符の下降を揃えること。

 ・3段目以降、P-5の三段目に入るまで、完全に4声(または3声)で揃って歌う
  部分となる。言葉の入り切り、抑揚をきっちりあわせる。
  また、繰り返されるfとpをはっきりと。特にp部分は子音を立てる。

 ・曲の冒頭から歌われていた天上の父への賛歌は、P-5の2段目「Domie Fili
  unigenite」から神の御子(イエス)への賛美に変わることを意識する。
  その部分の下3声、cresc.とdecresc.の大きな流れを出す。

 ・P-5の2段目から3段目の「JesuChriste」は広がるフォルテで歌う。
 ・3段目〜4段目、4声ばらばらに動く部分、言葉の抑揚をきちんとつけて。
  各パート入れ子で動いていく様子をきっちり出したい。

 ・4段目、フォルテ、女声少し強めに。ソプラノ八分音符を軽やかに上がる。
  最後の3小節はpでゆったりと歌う。

P-6〜P-7
 ・qui tollis peccata mundiが細切れにならないように歌う。pの抑制された音で。
  2小節目のソプラノとアルト、3小節目の内声同士、外声同士で
  「peccata mundi」のフレージングを揃えること。

 ・2段目のmiserere〜大きくなりすぎない。特にベースの高い音。

 ・次のqui tollis〜は一回目よりは明るく動きをもって。次のsuscipeへつなげる。

 ・3段目、全パートしっかりフォルテ。ただし、deprecationemのアクセントは「o」
  にあることを忘れないように。
 ・続く女声2部、dexteramに向かってのびのびと。二度のぶつかりを意識する。

 ・4段目、pとfの違いを明確に。fの時、ベースの下降音形を豊かに。

 ・Con moto以降は、また生き生きと歌う。
  P-7の1段目〜2段目の「JesuChriste」は内声の八分音符の動きをよく出す。

 ・2段目〜Motettとの違いをはっきり出したい。
  特に、内声にある十六分音符を少し硬めに(バロックっぽく)立てる。

 ・全パート「in Gloria Dei Patris」の部分、「in」で喉を詰めすぎないように。
  Gloriaに向かってたっぷりと歌う。
  音量の変化を劇的に出し、少しずつ感動していくように。
  「大きくする」のではなく、「音を満たしていく」ような歌い方で。

 ・最後のAmen、高声部は急いで降りてこないように。
  あまり弱くせず、豊かな音を鳴らしながら終わる。ブレス注意。
おまけ(望月先生の必殺早朝発声メソッド)
前回のボイストレーニングで練習したメソッドのキーワードだけ書いておきます。
朝の体操と一緒に(もし練習場があいていなければ、周囲の民家に迷惑をかけないように気をつけながら路上で^^; あ、路上でやるのはもちろん2)くらいまでね)、すばやく喉を温めるようにしましょう。

 1)ファルセット(高い音)から地声の位置まで「Uo」で動かす(オットセイのような声)
   喉頭懸垂機構をよく動かす。

 2)短いハミングで音階を。
   この時、口の中の空間をつぶして、「食べるような」ハミングにする。
   うなじをよく感じて、「パスネットしか通らないような空間を開ける」
   (SUICAが通ってはいけない^^; ……謎の呪文のようだ)

 3)つぶした「O」 うなじの意識は同上。

 4)よく身体を開いて、流れるような「O」で、高い音から5度の下降音形で。
   このあたりから本格的に声を出していく。

 5)長いスケールを歌う。自分の身体のそばで声を鳴らさない。
   手を伸ばした先から声が出ているような感じで、オクターブ、上行音形等を歌う

第58回東京都合唱祭演奏雑感(2003.07.08記)
演奏全般としては、富士通らしい「きれいで丁寧な」演奏ができたと思います。もちろん細かいアラはそれなりにあるわけですが、ピッチもかなり安定しておりバランスも(あの低音のよく聞こえないステージで^^;)そこそこ良かったようです。
聴いていた方の感想も、講師の講評や他団の感想も全体的に好評で、とにかくきれいだった、というものが多かったようです。
尤も、もうひとつ何かが足りないのでは、とか、いまひとつ面白みにかけるなどの感想もあると思います。特にMotettの方は、ただきれいなだけだったのではないか、と思う人もいるでしょう。また、Gloriaは言葉がきちんと揃っていない部分が散見され、中間部の精神性も今ひとつでした。それはそのとおりです。
が、今回に関して言えば、現段階ではまだそれでいいのです。

今年は、4月から10月初旬までの半年間をJCAへの取り組み期間にしていますが、この三ヶ月、つまり4月〜6月は「まずMotettをきれいに仕上げる」ことに重点をおいた練習をしてきました。
理由はいろいろありますが、大きくわけて
 ・Motettは、Missa super "Dixit Maria"のすべての要素を含んだ曲です。
  (superである以上当たり前ですが)
  なのですべての元になっている曲を先に丁寧に仕上げて、それからその変奏曲を
  作っていくべきであろう、と考えたことがひとつ。
  そしてMotettの方が、レガートで丁寧に歌いあまり激しい場面がないということから、
  現在の富士通の声やアンサンブルにあっており、ボイストレーニングという観点から
  も、まずこちらを重視して声などを作っていきたいと考えたこと

 ・課題曲とGloriaはある意味で似たところのある曲です。
  快活に動き、ホモフォニックな部分でも割合音量や迫力を要する場面が多い。
  今回はGloriaはその曲の勢いを殺さないで多少のアラがあっても生きた音を出して
  ほしい、成型はその後課題曲と一緒にやりたいと考えたこと。
  一度ステージにのせて安心感を持ってもらってから、こちらの曲は枝葉を取って、
  きれいにしていった方がいいのではないかと考えたこと。
などによります。

現在はJCAへの一里塚を過ぎたというところです。
Motettはスポンジケーキのスポンジ部分を丁寧に重ねて(イチゴも挟んで)寝かせてあるようなもので、Gloriaは、剪定せずに伸ばした盆栽のようなものです。どちらもこれからの三ヶ月で一番いい状態にしてお客様の前に出される事を待っています。

課題曲を練習していくことを含めて、ここから先は、Motettをどれだけデコレーションできるか、そしてGloriaの余計な枝葉(こなれていない部分や粗いところ)を剪定して成型していくか、が重要な課題になってきます。どちらの曲も、これまでの練習とは違った事を課題としてやっていくことになります。
すなわち、Motettは一度すべてを壊して、音楽を前へ前へと動かしていくことを、Gloriaはこれでもかというくらい丁寧に音を追いかけていくことを。その上で、もう一度、我々の演奏とはどういうものであるべきかを考え直していきたいと思っています。

前半あまり練習に参加できなかった方も、これから仕事が忙しくなる方も、あらゆる障害を排除して練習に駆けつけてくれている方も、いろんな人がいますが、とにかく全員がそろってアンサンブルを繰り返していかなければこれらのことは達成できません。音が取れてればいいというものではないことは誰もがわかっていることだと思います。
これから3ヶ月、休日練習が増えたり、一日練習があったり大変ですが、一回一回の練習の積み重ねを大切にがんばっていきましょう。

雑感なので、本当につらつらと書き連ねてきました。よく分からん文言が並んでいると思います(^^;)が、いろんな疑問は練習中に解消しつつ、10月に一番いい状態で演奏ができることを目指して、これからもみなさんと一緒に音楽を考えていきたいと思っています。よろしく。